高輪ゲートウェイという駅を、ご存じだろうか。私はご存じだった。なんなら関西に住んでいた頃からうっすら、ご存じだった。
「新しくできる駅の名前は、“高輪ゲートウェイ” に決定しました!」
テレビでそのニュースを耳にしたとき、なんとも言いがたい違和感が私の頭の中を駆けめぐったのである。
謎のカタカナ、ゲートウェイ。ゲートウェイとは一体何なのか。ゲートウェイ→ゲート(門)でウェイ!的な意味なのだろうか。うん、絶対に違う。これではFラン大学の飲みサーが2秒で考えた解。
それでいて、シンプルに長い。10文字だぞ10文字。略して呼ぼうにも “高ゲー” “高ウェイ” などというパッとしない略し方しかできない。
土地の雰囲気が1ミリも想像できないうえに、「呼びづらい」という致命的なミスまで犯しているのだ。ここまで傲慢なネーミングの駅も、稀である
ぽ子ス(私)は激怒した。必ず、かの高輪ゲートウェイの真相を、暴かねばならぬと決意した——

というわけで本日は、高輪ゲートウェイにやって来た。まず驚くべきは、天井の高さ。なんだこの圧倒的な開放感は…
下手に都会を歩くより、視界が広々としている。それでいてありとあらゆる壁面がシースルーになっているため、閉塞感が皆無
あまりのスケールのデカさに、間違えて駅ではなく空港に降り立ってしまったかのような錯覚に陥る。どう見ても高輪のゲートウェイというより、世界のゲートウェイ

構内にはちゃっかりスタバも完備。広大な駅を見渡せるように位置しており、その景色はおそらく秋葉原のスタバから望むソレとは雲泥の差。
外観もこれまたシースルー仕様で、ちょっとした観光地になり得る洗練された出立ちだ。

これは、インフォメーションを完全にAI化したもの。機械に向かって話しかけると、それを聞き取って自動で答えてくれるというのだ。言うなれば駅設置型のSiri

「わからないことがありましたら、また質問してくださいね♡」
画面の中でそう言って微笑む女性。確かに萌えキャラをつかうのは、日本らしさをアピールしつつ人件費を削減することができる名案。しかし、「機械に向かってひとり話しかける」というのは、なかなかに勇気を要する。アイツ、機械しか喋り相手がいないさみしいヤツなんだろうな…と、“お察し” されかねない。
嗚呼、このムダな自意識をかき消してくれるテクノロジーはないものか…

さらに衝撃だったと言えば、これ。『無人コンビニ』。セルフレジなどは普及しつつあるものの、ついに“店自体が無人化”されてしまったのである。
しかも防犯対策のためかこれまた全面シースルー。ビジュアルが近未来すぎる……

恐る恐る店内へ入ってみると、床に「GO」の標示。なるほど、この矢印に沿って進んでいくらしい。

店内はいたって普通の駅ナカコンビニだ。高輪ゲートウェイ駅の土産や、小洒落た酒類もあるが、それ以外のラインナップは極々ふつう。

外に出るには必ずこのレジを通らねばならない。改札のようにゲートが設置されており、

セルフレジと同じ要領で会計、または商品を購入しないのであれば「お店を出る」ボタンを選択。

すると、ゲートが自動的に開く仕様になっている。
これは、楽しい。高速のインターチェンジを通過するときのような爽快感がクセになる。しかし “渋滞” していたパターンだと悲惨
外へはゲートからしか出られないため、「何も買わないのに行列に並ぶ」→「手持ち無沙汰になり “ついで買い” する」という未来しか見えない。
恐るべき無人コンビニの落とし穴。今後の動向に注目だ。
さて、駅がすごすぎて出オチ感が否めないが、駅周辺も少し歩いてみる。

ちなみに外から見た駅名の看板が、“明朝体”だった。
なぜ…

駅を出てまず目に付くは、長いクレーン。タワークレーンというらしい。写真では1000分の1も伝わらないが、実物を前にすると、その高さに圧倒される
高輪ゲートウェイ、このほかにも尋常じゃない数のタワークレーンがあるので、心なしか上を見えげて歩いている人が多い。例に漏れず、私もアホヅラで天を仰いだ

建設エリアを仕切る壁には、スローガン的なものが書かれていた。
「この街は、実験場」
なるほど。高輪ゲートウェイがなぜこんなにも他の駅と一線を画すのか。その答えはここにあった。無人インフォメーション、無人コンビニ、明朝体フォントの導入… それらは現在進行形で実験中だったのだ。
高輪ゲートウェイという駅の在り方は、この言葉に集約されていたのである。

さて、駅からつづく高架を降りてみたものの、どこを見渡しても “建設現場” 。
あまりに何もないので、この街はまだまだ未完成なのだなと痛感する。駅の開業に、街がまったく追いついていないのだ。

それでも、しばらく歩くと営みのある街へ出てきた。
写真は、横断歩道を渡ってすぐのところにあった『稲荷神社』。名前こそ日本に500はありそうなネーミングだが、その参拝スタイルはなかなか類を見ない。なんと本殿は2階。階段を登って参拝するのだ

さらに手洗い場は、近づくと水が自動で出てくるハイテクっぷり。果たして神様側は、このアーバンなスタイルについてこれているのだろうか。心配だ。
さて、高輪ゲートウェイには、ほかにも一風変わった建物がよく見受けられた。

例えばこれは、交番。レンガ造り風の壁に、緑の横文字看板。パッと見、喫茶店かのように見えるのは私だけだろうか。あまりに厳戒さがないことから、この街の治安の良さが伺える

そのすぐ近くにあったのは『スリランカ大使館』。
建物自体はフツーのマンションだが、存在感のある“旗”と、写真には写っていない“ドデカ高級車2台”のせいで、一見、反◯のアジトかのような、ちょっとヤバそうなオーラを纏っていた。全然そんなことなかった。

こちらは道端にあった、なんてことないビル。その名も『オーデオ通信ビル』。
いいだろうか。“オーディオ” ではない、 “オーデオ” なのだ。ある一定以上の年齢に達した方がいう、A、B、C、“デー”、E…のソレである。
これは、デの後の “ィ” を発音しないという選択をした人種の、歴史的副産物。どうかこのまま、原形をとどめ続けてほしい
また、歩いていて気づいたのだが、高輪ゲートウェイ近辺は比較的 “坂道” が多い。

こちらは『伊皿子坂』(いさらござか)という坂。難読、且つ、由来が想像もつかない
こういう時は、柱の側面に記されている “坂の歴史” を読むのが、散歩オタクの掟(おきて)………

「いさらござか:中国人伊皿子(いんべいす)が住んでいたと伝えるが、ほかに大仏(おさらぎ)のなまりともいいさらふ(意味不明)の変化ともいう」
……………………
………………
………わからぬ。何度読んでみても、わからぬ。前半はまだわかるが、後半が壊滅的にわからぬ。そもそも説明書きに「意味不明」という四字熟語が入っている光景を、ちょっとみたことがない。説明する側が、説明することを諦めてしまっている。これで素人を理解させた気になるのもいい加減にしてほしい…
ほんで名前、“いんべいす” なんかい。“いさらご” ちゃうんかい

解読を諦め、路地を歩く。
するとこのカーブミラーに、妙な既視感を覚えた

ピクサーのこいつだった。
どこか自信なさげに覗き込むような、それゆえの愛くるしさも兼ね備えた、あの表情。
おなじだ。おなじ顔をしている

既視感といえば、住宅街にあった黄色いポールも気になった。
なんだろう、この懐かしさ……昔どっかで……
あっ

“人生ゲームの駒” だ!
スッキリしたので終わります。
高輪ゲートウェイ、新しいものと歴史が混在する駅でした。ぜひ降りてみてください。